第75回 卒業式 式辞
式辞
三寒四温を繰り返しながら、春の訪れを確かに感じられる今日の佳き日、公私ともにご多用の中、たくさんのご来賓の皆様にご臨席を賜り、豊中市立第四中学校、第75回卒業式を挙行できますことを、心より感謝申し上げます。(礼)
また保護者の皆様には、本日、お子様が、晴れの卒業の日を迎えられましたこと、さぞ、お喜びのことと存じます。
教職員を代表し、心からお祝い申し上げますとともに、本校にお寄せいただいたこれまでのご理解とご協力に対しまして、深く感謝を申し上げます。(礼)
さて75期生のみなさん。
みなさんは私がここ四中の校長として赴任して、初めて送り出す卒業生です。
この一年間、学校生活のさまざまな場面で見てきた皆さんの卒業にあたり、あるお話を紹介します。こんなお話です。
冬のとても寒いある日、二匹のヤマアラシが凍えないようにピッタリとお互いの体を寄せ合いました。
すると、二匹のヤマアラシは全身を覆っている鋭いトゲでお互いを傷つけ合い、痛くなって離れてしまいます。しかし次第に寒さに耐えられなくなって、再び近づき寄り添いますが、痛いのでまた離れてしまいます。こうしてヤマアラシは何度も近づいたり離れたりを繰り返して、やがて、ついに、お互いが傷つけ合わずに、ほどほどに温め合うことのできる距離を見つけました。
これはドイツの哲学者、ショーペンハウエルの寓話です。
互いに親しくなりたいのに、相手との距離が近づくほどにエゴがぶつかり合って傷つき、距離をとれば寂しさや疎外感を感じてしまうという人間関係の葛藤を喩えています。
もう十分にわかっていると思いますが、人というのは実に面倒臭い存在です。多くの人が日夜、人との関係に悩まされています。
皆さんにとってのヤマアラシのトゲは何でしょう。
それは「言葉」だったかもしれません。
皆さんがいま生きているこの時代は、わたしたち大人が経験してきたこれまでとは大きく違います。
オールドメディアといわれるテレビや新聞はたくさんの人が会議で意見を出し合ってから、情報を世に発信します。
しかしインターネットは世界を変え、SNSが発達して、誰でも気軽に言葉を発信できるようになりました。
一人一人がこれほどまで雄弁に、自分の思いや考えを他人に公開するようになったのは、ここ最近のことです。
言葉には形がありません。だからこそ深く心に刺さり、そこに留まります。
言葉には重さがあり、力があります。
だから勇気づけられたり、誰かを守ることもできます。
言葉を慎重に扱うために必要なのは、言葉を受け取る相手がどんな気持ちになるかを考える「想像力」を働かせることです。
「想像力」とは、存在しないものを思い描き、生み出す人間特有の能力とされています。
人とそれ以外の動物との大きな違いは、人が「想像力」を持つことだといわれています。
他人の気持ちを完全に理解することは不可能です。
そこで私たちは「想像力」を用いて他人をわかろうとし、他人に共感します。
共感するということは、他人も自分と同様に喜びや痛みを感じることを理解することですが、このことが社会にとって重要であることはあきらかです。
皆さんが生きていくこれからの社会は、「多様性」がキーワードです。
多様とは、いろいろと「違う」ということです。
違いを受け入れ、共感するためには、正しい知識を学び、想像力を駆使して、心の許容量を広げる努力が必要です。
それを面倒臭がって狭い考え方に偏った時、人権はないがしろにされ、
人権がないがしろにされた究極の事態が何なのかはこれまで学習してきたとおりです。
ところで、違いを感じている自分は、変わらない、不変のものなのでしょうか。
人はそんなにも簡単に決めつけられてしまう存在なのでしょうか。 いえ、
人は変わり続けます。変わり続けるから、人は学び、人生は面白いのです。
では、人が変わる要因は何でしょう。
それは出会いです。人との出会いだけではありません。スポーツや音楽・趣味などといった物ごととの出会いも人を変えます。
これからの人生に何度かある転換点(ターニングポイント)には、あとになって、あの偶然は必然だったのかもと思わせる人や物事との出会いが存在します。
だから、簡単に「違い」を理由に、出会いのチャンスを自分から避けてしまうのはやめましょう。
想像力を働かせること。
人が人らしくあること。
技術がどれだけ進んで、たとえAIが自己学習を進めてシンギュラリティを起こしても、負けないくらいのあなた固有のさまざまな知識と感動のビッグデータを増やし続けてください。
75期生の皆さん。
これからの、さまざまな人や物事との、すべての出会いに感謝して、
「あなた」というドラマを丁寧に作り上げていってください。
まだ何者にもなれる可能性に満ちたあなたたちに、幸多かれと祈ります。
令和8年(2026年)3月13日
豊中市立第四中学校 校長 浅田 勝利
