式 辞

三寒四温を繰り返しながら、春の訪れを確かに感じられる今日の佳き日、公私ともにご多用の中、たくさんのご来賓の皆様にご臨席を賜り、豊中市立第十一中学校、第49回卒業式を挙行できますことを、心より感謝申し上げます。

また保護者の皆様には、本日、お子様が、晴れの卒業の日を迎えられましたこと、さぞ、お喜びのことと存じます。  教職員を代表し、心からお祝い申し上げますとともに、本校にお寄せいただいたご理解とご協力に対しまして、深く感謝申し上げます。

さて49期生諸君。 私は君たちと一緒にこの十一中にやってきました。100年に一度といわれる新型コロナウイルス感染症との戦いの後半戦。そしてGIGAスクール構想といわれる急速な学校へのICTの普及。大きな変革の時期を一緒に過ごしてきた3年間でした。

学校に来なくてもリモート授業でも学習が可能なのか。感染の危険性とコミュニケーションとのバランス。そうした中で始まった中学校給食。勉強とは高校受験のためだけのものなのか、そもそも学力とは何なのか。目標と目的との食い違いなど…。 価値観の多様性が大きく進む中で、未来を生きていく君たちを前に、考えることが多い日々でした。

そうした君たち49期生と過ごした3年間の中で忘れられないのは、そう今年度の体育大会でした。

あの秋晴れの下での美しい整列。自分たちが成功させるんだという意思が、指先にまで届いていました。ダンスに、競技に、応援に、そして、それぞれの係の連携、後片付けまで、いい先輩ぶりでした。 止まっているもの、途切れたものを、もう一度動かすには大きな力が必要です。君たちの思いは、その「起動」させる力でした。 今後も続いていく十一中の体育大会。そのリスタートを成功させてくれたのは君たちです。ありがとう。

君たちは部活動でも、外部の様々な活動でも頑張っていました。 部活動ではたくさんの試合を見せてもらいましたが、一番印象に残っているのは、女子バスケットボール部の、残り1分で、8点の点差をひっくり返した試合です。 ラフでタフなチームを相手に、こんなこと、ドラマみたいなことがあるんだ、日頃の行動は、こういう時に現れるんだと感動しました。 タイムアップがすぐそこに見えていても、簡単に「無理」だと諦めてはいけないということを、中学生には想像を超えた可能性があることを、この歳になって改めて学ばせていただきました。

そんなたくさんの感動をくれた君たちの卒業にあたり、あるお話を紹介します。

冬のとても寒いある日、二匹のヤマアラシが凍えないようにピッタリとお互いの体を寄せ合いました。 すると、二匹のヤマアラシは全身を覆っている鋭いトゲでお互いを傷つけ合い、痛くなって離れてしまいます。しかし次第に寒さに耐えられなくなって、再び近づき寄り添いますが、痛いのでまた離れてしまいます。こうしてヤマアラシは何度も近づいたり離れたりを繰り返して、やがて、ついに、お互いが傷つけ合わずに、ほどほどに温め合うことのできる距離を見つけました。

これはドイツの哲学者、ショーペンハウエルの寓話です。互いに親しくなりたいのに、相手との距離が近づくほどにエゴがぶつかり合って傷つき、距離をとれば寂しさや疎外感を感じてしまうという人間関係の葛藤を喩えています。

君たちは、やるべきことが分かっていると頑張れて、形を整える力は抜群です。 しかし、その能力に比べて、自分の意志で動くことや、意思を伝えるのが苦手で、失敗して恥ずかしい思いをすることや、傷つくことを恐れすぎて、距離を詰めるのを諦めて、離れてしまうところがあります。

今の日本を覆っている空気が、相手の出方を気にして、できるだけ失敗をしないように、責任を負わないように、繊細で内向きなので、敏感な君たちは影響を受けているのかもしれません。 マスクを外せない、外すことを強制されないことは、素顔の自分で向き合うことを避けさせたかもしれません。

先ほどの寓話を、「物事との距離感の捉え方」と、視点を変えてみましょう。

繰り返す失敗から得た経験は、君の人生をきっと豊かにしてくれることでしょう。

たくさんのチャレンジとエラーは、社会が君を何者にも代えがたい存在だと認めることでしょう。      なぜなら一人の個人として、君が経験に要した時間が、君自身だからです。

君は何に向いているのでしょう。君の感覚や個性は君だけのものです。

跳ね返されても挫けずに、自分の興味の向くことにエネルギーをぶつけてください。 

好きなことに没頭しましょう。それが、君の進む方向です。

先週、学年の先生方が卒業していく君たちへ、はなむけに「正解」という歌をプレゼントしてくださいました。                                             

「答えがある問いばかりを教わってきたけれど、明日からはあなただけの正解を探しにゆくんだ」    「制限時間も、解答用紙も、採点基準さえも あなたのこれからの人生なのだ」というメッセージでしたね。

諸君、正解は一つではありません。 もしかしたら、間違いはあっても、正解はないことばかりかもしれません。

相手の出方ばかりを気にしたり、摩擦を小さくするように、角が立たないように、縮こまって丸まっているのではなく、どうか失敗を経験に変えて、自分のハードルを一つずつ越え続けてください。

まだまだ無難にまとめ上げなくてもいいです。                              自分はこれが好きだという気持ちを信じて、それを研いで、とがらせて、もっと伸ばして、より鋭くする。 そんな出っ張りをいくつも作って、豊かで幸せな人生を送ってくれることを祈っています。

49期生諸君、「丸くなるな、星になれ」。

人生という自分のドラマのスターになってください。

                        令和6年(2024年)3月15日                                 

                        豊中市立第十一中学校  校長 浅田 勝利