2年生の時はほとんど登校していない彼女は、担任の先生が足しげく家庭訪問をしたためなのか、3年生になってからは今年も同じ担任の先生と約束した週に何回かの日は律義に遅刻してもやってくる。

校長にも廊下ですれ違うと話しかけるし、来てるなら来たって教えてと約束したら、気まぐれに校長室のドアをノックして「きたよ」と言いに来る。

 

校舎を巡回して校長室に戻ってくると、遅刻して入室証をもらいに来ていた彼女と職員室前で会った。

「いま来た」と彼女。「うん、今日は蒸し暑いな」と私。

 

職員室前には職場体験で生徒が作ってきた木製のベンチがある。

そこに並んで座って、学年の先生が入室証を書いてくれるのを待つ。

二人の視線の先にはいろんな運動部の表彰状が飾ってある。

彼女「私、足早かってんで」

私「ふーん、そうなんや」(もう過去形なんや)

おもむろに私「魔法があって、過去に戻れたり、未来に飛べるとしたら、何歳に行きたい?」

彼女「小3かな」

私「小3!? なんで?」

彼女「掛け算からやり直したいな」

私「掛け算なら九九おぼえようや」

彼女「もうええねん」

私「掛け算はできな大人になって困るで」

彼女「そやな」

入室証ができあがって、彼女はそれを受け取って自分の教室に上がっていった。

 

こんなこと言ってたよと学年の先生と共有する。

数学の先生「7の段からあやしくてごまかすかな」

担任の先生「あやしい時もあるけど割り算も大丈夫ですよ、ただ自信がないから」

私「自信なぁ…」

できない、まちがう自分を必要以上に隠す思春期。自分だけじゃないんだと他人との距離感が正しく理解できる頃にはすでに失った膨大な時間ができてしまう。

たいしたことないことなんだよと言うのは簡単なことだけど、必要以上に大きな壁と感じてしまう時期が現在進行形の彼らにわからせるのはとても難しいことだ。

 

蒸し暑い朝の出来事である。