あの鐘を鳴らすのはあなた
先日の小学校の研究授業には同僚の首席の先生と一緒に向かった。
行く道すがら何がきっかけだったか昔の話になって、僕が「生徒と保護者に育ててもらったって感じなんですよ、そして先輩の先生だったかな。でも圧倒的に生徒と保護者からでしたね」と昔の出来事を振り返りながら話していた。すると間髪を入れずにその首席の先生が「校長先生も同じなんですね、私も生徒と保護者にたくさん教えてもらいました」と少し興奮されて話に花が咲いて、盛り上がってるうちに小学校に到着した。
その夜、夕食後に転寝をして目が覚めたら、土屋アンナさんと斎藤工さんがコメントしながら素人画像が進むという番組がつけっぱなしのテレビで流れていた。ぼーっとしながらだんだん引き付けられた。内容はこんな感じである。(後でTVerで改めて確認しました)
「こどもディレクター」という番組で、カメラを預けるから好きに撮ってくださいという番組のようだった。毎回そうなのかもしれないけれど、「自分の親に聞いてみたいことはありませんか」という内容のものだった。
今回は、34歳の妊娠7か月、なかなか子供も作らずに好き勝手にやってきたから責任をもって育てられるかとか、自分の親は「自分が親になるという時に、どんなことを考えていたのか聞いてみたい」と思って実家に寄って家族に聞くという展開だった。
いよいよ番組は佳境に入っていき、ミホさんという妊婦さんは、夜、自分の母親に、聞いてみたかった「自分が親になるときにどんなことを考えていたのか」を尋ねた。
ミホさんの母親は決して有名人でも教育評論家ではないが、普通の親子のその飾らない言葉は子どもを育てた先輩の声として何気に重かった。
「お母さんをこどもが育ててる」、「子育てっていうけど子供に親育てしてもらっている」、「立派な親になろうなんて思わなくていい、みんな親も完璧じゃないから」と名言が続く。
「こういうふうに育ってほしかったとか、そういう理想みたいなものはなかったの?」とミホさんが重ねて尋ねると、「あったかもしれないけど、いいんじゃない、いまこれで」と母。
ミホさん、「(私は)すごい親孝行の子供には育たなかったね」と親の思いを考えて呟くと、「でもさ、いいんじゃない本人が幸せそうにしてればいいかな、結婚のときにはいろいろ考えたけど、でもお父さんが言ったんだよね、「自分の娘を信じてやれ」「むすめがしんじたあいてだからまちがいはない」っていったんだよ」とここぞとばかり裏話を語る母、そして、
「本人が選んだ道だからいいかってね、きっと子育てしてるときに親育てしてもらってる時に、(自分の)お母さんこういう気持ちだったんだろうなって、立場が変わったらわかる、理解することがあると思うよ、最後は案ずるより産むが易しだから」と何気なく淡々と真理?を語る母。
翌朝、母親は(孫が)生まれるころに咲くようにとヒマワリの種を1500粒植えた場所にミホさんを連れていく。画面が変わり2か月後、ひまわり畑に風景が変わり、ひと月早く生まれた子供を紹介するミホさん。子供の名前は、人生が彩って良いものになるようにとの願いを込めて「彩良」と命名されていた。
子どもを持つ人にしか親の気持ちはわからないかといえばそんなことはない。
「子どもがいない、産んだことのない先生に親の気持ちはわからない」と言う保護者がたまにいるが、それはそういうところもあるかもしれないが、それがすべてではない。
そんなことを言っていたら、その人しかその人のことはわからないということになるのでお話にならない。
経験の浅い教員が何をよすがに不安を払しょくして頑張れるかというと、はるか昔のことになるが、自分のことを振り返ってもなかなか難しい、その不安は実感としてわかるのである。早く年を取りたい、ベテランになりたいといつも思っていた初任の当時。
最近の若い人を見ていると、自分の頃のように、ほとんどの人が賢いから突撃なんてしてしない。当たって砕けて分かり合えるなんてのはもう時代遅れかもしれない。
でもぶつかった摩擦から生じた熱は焼き付くのだ。何に焼き付くのかは不明だが、熱が化学反応を促進するのだ。
でもそんなぐいぐい行くやり方は時代が許さないかな。失敗ややり直しがしにくい時代だから。
そういう経験をずっとしてきていないのに、異文化のことをいきなり就職してから飛び込めなんて難しすぎるだろう。
でも「子どもに親にしてもらった」という話が一つの真理なのだとしたら、教員が教師になるには子供と保護者からそして接着剤として先輩教員が必要で、一歩踏み込む経験の連続が大切なのかもしれないと現場を俯瞰して、小学校を訪問して、深夜放送を見て、感じた9月の最終週だった。
もう、今年度の半分が終わった。体育大会まであと10日だ。また台風が発生している。
1000人もいればいろいろ起きる、どの学年もあんなことこんなこと、不思議と経験の浅い教員のクラスで起きる。今は経験の浅い教員のほうが多いのだ。いろんなところで勃発している。勃発は良い、潜行が怖い。いろんなことが起きて、そして解決して育っていくんだ。
和田アキ子は歌う、「あの鐘を鳴らすのはあなた」と。